「ひとりでどうしようもなくなったら、その時は施設に入るよ」
「自分でできるうちは、まだ家で暮らしたいんだ」
90歳で要介護1、ひとり暮らしをしている太郎さんはそうおっしゃいました。

まだ自分の気持ちをしっかりと言葉にできる方。
上手くできないことも少しずつ増えてはきたけれど、日々の生活のひと通りのことは何とか自分でこなして暮らしています。
そんな太郎さんの姿を見ていると、「もう少し本人の気持ちに寄り添って、待ってあげたらいいのにな」と思ってしまうのです。
けれど、ご家族の思いは違いました。
「待てないです!」
「すぐに施設に入れたいんです」
「頑固すぎて無理、関わりたくない」
「昔から横柄な人だから、会話すると腹が立つ」
「代わりに説得してくださいよ」
なかなかに厳しい言葉が、次から次へと飛び出してきます。
でもね……と、心の中で思うのです。
私が説得?たった今、会ったばかりの人の言うことを、そんなに頑固と言われるお父様が素直に聞くと思われるのかしら?
ご本人が嫌がっているのに、家族の都合で施設に入ってほしいのだとしたら、丁寧にお願いしていくしかありません。
拝み倒してでもお願いするしかないんじゃないかな。
一回でダメなら何回でも頭を下げて、納得してもらうしかないと思うのです。
そんな風に思っていたら、長男のお嫁さんから切実な(そしてなかなかの勢いの)訴えが続きます。
「認知症の症状が出てきて、一人暮らしはもう危険なんです。私達は共働きだから面倒は見られません。父の安全を守るには、施設に入ってもらうしかないんです!」
そう言って、日頃の困りごとを次々と教えてくださいました。
・たまに失禁があってにおう、紙パンツを履いてくれない
・トイレの流し忘れや、汚れた服をまた着てしまう
・洗濯機に放置したまま干さない、食器がちゃんと洗えていない
・まだ午後3時なのに雨戸を閉めて部屋を真っ暗にしている
・薬が床に落ちていたり、水分をあまり摂らなかったりする
・ゴミの日じゃない日にゴミを出してしまう
・危険と言っているのに畑でカマを使う
・回覧板を止めてしまったり、届けてくれた家にまた戻してしまう。
出るわ出るわ、日常の細かな「困りごと」の数々(笑)。
関わりたくないと言いながらも、これだけ細かくお父様の様子を把握されているのは、実はすごいことでもあるのです。
「世間体もあるから顔を出しているだけ」とおっしゃいつつも、しっかり気にかけていらっしゃる証拠かもしれません。
要介護1で施設入所はできる?親の拒否とどう向き合うか
実のところ、要介護1で一人暮らしの場合、特別養護老人ホーム(特養)に入るのは制度上のハードルが高めです(特養は原則「要介護3以上」が対象となります)。
有料老人ホームやグループホームといった選択肢もありますが、ご本人がこれだけ強く拒否している場合、無理に入所を進めても現場でのトラブルや早期退去に繋がってしまうことがあります。
家族が「もう限界だから入れたい」と焦る気持ちも、本人の「家にいたい」という想いも、どちらも嘘ではない大切な気持ちです。
だからこそ、このケースのように家族だけで説得しようとせず、ケアマネジャーや地域包括支援センターなどの第三者を頼っていただきたいなと思います。
いきなり施設入所を目指すのではなく、デイサービスやショートステイ(短期入所)を利用して「お互いに離れる時間」を作るだけでも、気持ちのガス抜きができることは多いものです。
長年積み重ねてきた家族の歴史がありますから、「家族だから絶対に面倒を見るべき」とは思いません。
お互いに割り切れない感情があるのも当然です。
ただ、この長男夫婦もやがては老いて、介護が必要になる日が来るかもしれません。
その時、子どもたちは親と向き合うご両親の後ろ姿をじっと見ています。
「自分たちの選択が、いつか未来の自分につながっていくのかもしれない」
ほんの少しそんな想像力を持つだけでも、親御さんへの接し方が柔らかくなるのかもしれませんね。
今日も大切な気付きをありがとう。
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