「そろそろ家に手すりをつけたいけれど、いったい何から始めればいいんだろう?」
「どこに頼んだら安心なのかな……」
ご両親の足腰が少し心配になってきたとき、こんな気持ちになる方は多いのではないでしょうか。
住宅改修は、普段なじみのない言葉や手続きが多くて、最初の一歩がいちばん心細いものです。
私もケアマネジャーとして、ご家族から同じようなご相談を数えきれないほどいただいてきました。
この記事では、介護保険を使った住宅改修の流れと、現場で感じてきた「業者選びのコツ」を、できるだけ分かりやすくお話しします。

そもそも介護保険の住宅改修ってどんな制度?
要支援・要介護の認定を受けている方が、住み慣れた自宅で安全に暮らし続けられるように、小規模な改修費の一部を補助してくれる制度です。
住宅改修には、20万円の「支給限度基準額」が設けられています。
これは、介護保険から支給される住宅改修費の計算のもとになる金額で、原則として一人あたり20万円まで利用できます。
たとえば20万円の工事をした場合、自己負担1割の方なら、18万円が給付され、ご自身のご負担は2万円になる計算です。
「工事のお金を、まとめて用意しなくちゃいけないのでは……」と心配される方も多いのですが、最近は、最初から自己負担分だけを支払えばよい「受領委任払い」を取り入れている市区町村が増えています。※自治体によって利用できるかどうかが異なります。
《 対象になる工事は主に次の6種類 》
・手すりの取り付け
・段差の解消(スロープ設置、敷居の撤去など)
・滑りにくい床材などへの変更
・引き戸などへの扉の取り替え
・和式から洋式への便器の取り替え
・上記に付随して必要になる工事
「浴室をまるごとリフォームしたい」「家全体をバリアフリーにしたい」というご希望の場合は、工事のうち、介護保険の対象になる部分だけが補助の範囲になります。
たとえば浴室なら、次のように分かれます。
対象になる工事の例
・浴室や脱衣所への手すりの取り付け
・浴室の床のかさ上げなど、出入り口の段差をなくす工事
・浴室の床を、滑りにくい材料に変える工事
・折れ戸を引き戸にするなど、扉の取り替え
対象にならない工事の例
・浴槽そのものの交換
・ユニットバスへの全面的な入れ替え
・給湯器や水栓の交換
・壁や天井の張り替えなど、見た目をよくするための工事
つまり、「転ばないようにする」「出入りしやすくする」など、日常生活上の困りごとを改善するための工事が対象で、単なる設備の交換やリフォームは対象外、と考えると分かりやすいです。
トイレについては、和式から洋式への便器の取り替えが対象になります。
すでに洋式のトイレを、新しい洋式に交換する工事や、温水洗浄便座つけるだけの工事は、対象外になります。
同じ工事でも、自治体によって判断が分かれることがあります。
「これは対象になるのかな?」と迷ったら、ケアマネジャーや地域包括支援センター、市区町村の窓口に確認してくださいね。
住宅改修の基本的な流れ
全体像を先に知っておくと、気持ちがぐっと楽になります。
1.まず相談する
担当のケアマネジャーに「手すりをつけたい」と伝えてください。まだ担当がいない場合は、お住まいの地域の「地域包括支援センター」や、市区町村の介護保険の窓口が相談先になります。
2.ご本人の動きを見ながら、計画を立てる
どこで立ち上がるのか、どの順で歩くのか、どっちの手が使いやすいのかなど、ご本人の身体の状態や生活の流れを見ながら一緒に考えます。
3.施工業者を選んで、見積もりをとる
工事をお願いする業者を決め、見積書を作成してもらいます。迷ったときは、複数の業者から見積もりをとるのも一つの方法です。このとき、「受領委任払いが使えますか?」と確認しておくと安心です。
4.工事の前に、市区町村へ事前申請をする
「住宅改修が必要な理由書」や見積書、工事前の写真などを市区町村へ提出し、承認を受けます。
5.承認が下りてから工事をする
必ず承認の連絡を受けてから着工してください。
6.工事のあと、完了報告をして給付を受ける
工事が終わったら、領収書や工事後の写真などを提出して、支給申請をします。
お支払いの方法は、お住まいの市区町村によって、次の2通りに分かれます。
・受領委任払い:最初から自己負担分(1〜3割)だけを業者に支払えばよい方法です。残りの7〜9割は、市区町村から業者へ直接支払われます。
・償還払い:いったん工事費の全額を業者に支払い、あとから給付分(7〜9割)が戻ってくる方法です。
受領委任払いは、市区町村に登録している業者さんでないと使えないことが多いです。
登録していない業者さんの場合でも、介護保険は使えますが、いったん全額をお支払いいただく「償還払い」になります。
とくに気をつけたいのが、承認の前に工事を始めてしまうことです。介護保険の対象外になってしまうことがあるので、「工事の前に、まず相談」と覚えておいてください。
ケアマネジャーの本音:業者選びで大切にしていること
住宅改修で、とても大切なのが「どの業者にお願いするか」です。
特別な事情がなければ、私たちケアマネジャーは、高齢の方の身体状況や住まいの改修に慣れた、福祉用具や住宅改修に強い業者さんをご提案することが多いです。
手すり1本でも、使いやすい高さや太さ、取り付ける位置、動線への配慮に、専門性の違いが出るからです。
現場で少し悩ましいのが、ご家族から「知り合いの大工さんに頼みたいんだよね」と言われたときです。
顔見知りの職人さんは安心感がありますし、お気持ちはとてもよく分かります。
ただ、大工さんは建築のプロであっても、高齢の方の体の変化や福祉用具に詳しいとは限りません。
一方で、私たちケアマネジャーも建築や施工の専門家ではありません。
だからこそ、建築の技術と福祉の視点が、しっかり噛み合うことが大切なんです。
知り合いの大工さんにお願いする場合も、ご家族だけで進めずに、ケアマネジャーにも現場に立ち会ってもらってください。
取り付け位置や高さ、使い勝手を、ご本人に実際に動いてもらいながら一緒に確認するのがおすすめです。
なお、知り合いの大工さんが市区町村に登録していない場合は、受領委任払いが使えないことがあるので、そこもしっかり確認しておきましょう。
必要な図面や書類作り、市役所への申請にも慣れているため、工事までのやり取りもスムーズです。
結果的に、必要な場所を早く整えることができれば、ご本人やご家族にとっても安心につながります。
「住宅改修が必要な理由書」ってどんなもの?
申請のときに必ず必要になるのが「住宅改修が必要な理由書」です。
これは、「なぜこの方に、この工事が必要なのか」を専門職の立場から説明する書類です。
ご本人の身体の状態(麻痺の有無や歩き方など)、日々の生活動線、そして「この改修で、ご本人の自立や介護する方の負担軽減にどうつながるか」を記載します。
理由書があることで、単なる家の修繕ではなく、「その人らしい暮らしを支えるための介護保険サービス」として認められるのです。
理由書は、ケアマネジャーのほか、福祉住環境コーディネーターなどの資格をもつ専門職が作成できます。
失敗しないために、気をつけたいこと
・「あったら便利そう」「この際だからぜんぶ」ではなく「困りごと」を出発点にする。
・改修の場所や設置の位置や高さ、動線は、図面だけで決めず、できるだけご本人に実際に動いてもらい、使い心地を確かめる。
・賃貸住宅の場合は、必ず大家さんや管理会社の承諾をとる。
・受領委任払いが使えるかどうかは、自治体と業者によって違うので、見積もりの前に確認する。
手すりは「レンタル」という選択肢もあります
工事をしなくても、置くだけ・挟むだけで使える手すり(据え置き型など)は、福祉用具貸与(レンタル)の対象になる場合があります。
壁に穴をあけたくないとき、状態の変化に合わせて取り替えたいときには、こちらも検討してみてください。
どちらが合うかは、ご本人の状況によっても変わるので、ケアマネジャーと一緒に考えるのがいちばんです。
よくある質問

Q. 20万円は、1回しか使えないの?

A. 原則は一人一回ですが、要介護度が3段階以上重くなったときや、転居したときには、あらためて20万円まで使える場合があります。小分けにして複数回に分けて使うこともできます。

Q. 工事が20万円を超えたら?

A. 超えた分は全額自己負担になります。

Q. 認定を受ける前に工事しても大丈夫?

A. 原則として、認定を受けていることが前提です。認定の申請中の場合は、市区町村の窓口に必ず確認してください。
最後に
ご自宅の環境を整えることは、これからも住み慣れた家で、笑顔で暮らし続けるための大切な一歩です。
分からないことがあって当たり前ですから、ひとりで抱え込まず、周りの専門職にどんどん頼ってくださいね。
ご本人とご家族にとって、いちばん心地よいかたちがみつかりますように。
※制度の運用は、お住まいの市区町村によって異なる場合があります。詳しくは、担当のケアマネジャーや市区町村の介護保険窓口にご確認ください。


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