
「水分補給してね」「こまめに飲んでよ〜」
訪問のたびに、何度この言葉をかけてきたことでしょう。
高齢者に十分な水分を摂ってもらうことは、思っている以上に難しいものです。
ご家族からも「どうしたら飲んでくれるんでしょう?」と相談を受けることがよくありました。
水分を摂るように声をかけても、なかなか飲んでくれない。
飲んだと思っていたら、実際にはほんの少しだった。
そんな経験をされたご家族もいらっしゃるのではないでしょうか。
けれど、飲まないことには、その人なりの理由があります。
ケアマネジャーとして20年間、高齢者の暮らしに関わってきて感じたのは、加齢による身体の変化や認知機能の低下、日常生活の不便さなど、さまざまな要因が水分摂取に影響しているということです。
今回は、高齢者が水分を摂りにくくなる理由と、介護現場で実際に取り入れてきた工夫をご紹介します。
高齢者が水分を飲まなくなる4つの理由
喉の渇きを感じにくくなる
年齢を重ねると、喉の渇きを感じる感覚が鈍くなることがあります。
若い頃なら自然に水分を欲していた場面でも、本人はそれほど渇きを感じていないため、飲むことを忘れてしまうのです。
本人に自覚がないまま水分不足が進んでしまうこともあるため、周囲が気にかける必要があります。
トイレに行く回数を減らしたい
水分を摂れば、当然トイレに行く回数も増えます。
足腰が弱くなっている方や、歩行に介助が必要な方にとって、トイレへの移動は決して簡単なことではありません。
「何度もトイレに行くのが大変」
「夜中に起きたくない」
「間に合わなかったら困る」
こうした気持ちから、本人が意識的に水分を控えてしまうことがあります。
飲んだ量を把握できていない
認知機能の低下がある方の場合、さっき飲んだことを忘れてしまったり、実際にどのくらい飲んだのか把握できなかったりすることがあります。
「ちゃんと飲んでいるよ」とおっしゃっていても、確認してみると、思ったほど摂取できていないこともあります。
水やお茶が口に合わない
水分を摂ること自体が苦手な方もいます。
水の味がしないから物足りない、口の中に残る感じがするなど、好みや口腔内の状態によって飲みにくさを感じる場合もあります。
甘い飲み物なら飲めるという方もいらっしゃいます。
無理に水やお茶だけにこだわらず、その方が飲みやすいものを探してみることも大切です。
高齢者の水分不足で気をつけたいこと
水分不足は、単に喉が渇くだけの問題ではありません。
身体に必要な水分が不足すると、さまざまな不調につながる可能性があります。
- 脳梗塞などの血管の病気: 脱水によって血液が濃縮されると、血栓ができやすくなることがあります。特に高齢者や持病のある方は注意が必要です。
- 意識や認知機能への影響: 脱水によって、ぼんやりする、反応が鈍くなる、せん妄と呼ばれる急な混乱状態が生じることがあります。
- 尿路感染症: 水分不足で尿量が減ると、排尿によって尿路の細菌を排出する働きにも影響します。
- 便秘: 水分が不足すると便が硬くなり、排便しにくくなることがあります。
- 熱中症: 体温調節にも水分が必要なため、室内で過ごしていても脱水や熱中症を起こすことがあります。
特に、いつもと違って急に元気がなくなったり、意識や言動に変化が見られたりした場合は、水分不足だけと決めつけず、早めに医療機関へ相談することが大切です。
日々の水分補給は、元気に暮らしていくための基本的なケアのひとつなのです。
介護現場で実践してきた水分補給の工夫
「水分を摂ってくださいね」と声をかけるだけでは、なかなか習慣にはなりません。
大切なのは、ご本人が無理なく飲める方法を見つけることです。
私が現場で取り入れてきた工夫をいくつかご紹介します。
飲んだ量を目で見えるようにする
水分をどのくらい摂ったのか分かるようにすると、ご本人もご家族も状況を把握しやすくなります。
ご自身で記録できる方なら、カレンダーやメモ帳に飲んだ量を書いてもらう方法があります。
「次に訪問したときに見せてくださいね」とお伝えすると、楽しみながら取り組んでくださる方もたくさんいました。
記録が難しい方の場合は、あらかじめ飲み物を用意しておき、残量を確認する方法もあります。
ただし、必要な水分量は体格や食事量、持病、活動量などによって異なります。
一律にペットボトル何本と決めるのではなく、食事に含まれる水分も考慮しながら、その方に合った目標を設定することが大切です。
水にこだわらず、好みの飲み物を見つける
水やお茶を勧めても進まない方には、飲み物の種類を変えてみるのもひとつの方法です。
例えば、
- 麦茶やほうじ茶
- 好みの味の飲料
- 牛乳や乳飲料
- スープや味噌汁
- 水分を多く含むゼリーや果物
など、食事や健康状態に合わせて取り入れられるものを探してみます。
以前、100歳になるトミさん(仮名)という方がいらっしゃいました。
普通のお水はなかなか飲んでくださらなかったのですが、経口補水液を試したところ、「これならスッと飲めるから不思議だね」とおっしゃって、飲んでくださったことがあります。
その方に合うものを見つけると、水分補給への抵抗感が変わることもあるのだと感じた出来事でした。
ただし、経口補水液は日常的な水分補給のための飲料ではありません。
脱水状態に応じて使用するもので、塩分や糖分も含まれています。
特に腎臓病や心臓病などで水分・塩分の制限がある方は、使用前に医師へ確認してください。
飲むタイミングを生活の中に取り入れる
一度にたくさん飲んでもらおうとするより、生活の節目に少しずつ水分を摂る機会をつくると、習慣にしやすくなります。
例えば、
- 朝起きたとき
- 食事の前後
- 薬を飲むとき
- 入浴の前後
- 散歩や体操のあと
などです。
手の届く場所に飲み物を置いておくことも大切です。
ただし、飲み込みにくさがある方や、むせ込みが見られる方は注意が必要です。
飲み物の種類や形状、姿勢などについて、医師や看護師などに相談しましょう。
水分補給を毎日の楽しみに
高齢者の水分補給は、ただ飲むように促せば解決するというものではありません。
喉の渇きを感じにくくなっていたり、トイレへの移動が負担になっていたり、ご本人なりの事情があります。
だからこそ、まずは飲みたくない理由に目を向けてみることが大切だと思います。
お気に入りの湯呑みを使ってみる。
好きな飲み物を用意する。
食事にスープやゼリーを取り入れてみる。
そんな小さな工夫が、水分を摂るきっかけになることもあります。
ご家族だけで頑張りすぎず、必要に応じてケアマネジャーや訪問看護師などにも相談しながら、その方に合った方法を見つけていけるといいですね。
毎日の水分補給が、暮らしの中のちょっとした楽しみになってくれたらと思います。
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