「入院関連機能障害(HAD)」という言葉をご存じですか?
病気やけがの治療のために入院した高齢者が、退院するころには「入院前にはできていたこと」が難しくなってしまう。
歩く、食べる、着替える、トイレに行く。
そんな何気ない日常生活の力が、入院をきっかけに低下してしまうことがあります。
これを「入院関連機能障害」と呼びます。
高齢者の暮らしに関わってきた私にとっても、入院後にこうした変化が見られることは、決して珍しいことではありませんでした。

なぜ、高齢者は入院で機能が低下しやすいのでしょうか?
入院すると、それまでの生活とは環境が大きく変わります。
病状によってはベッドで過ごす時間が長くなり、点滴などの治療を受けながら生活することもあります。
当たり前のことですが、病院は、治療をするところです。
そのため、自宅で暮らしていたときのように、起きて、歩いて、食事をして、また歩いて……という生活にはなりにくく、どうしても普段より活動量が少なくなります。
もちろん、治療のために安静が必要な時期もあります。
ただ、病状が落ち着いてきたあとも活動量の少ない状態が続けば、当然、筋力や体力も少しずつ落ちてしまいます。
もともとの体力に余裕が少ない高齢者にとっては、その「少しずつ」が意外と大きいものです。
入院前には何でもなかった「立つ」「歩く」「トイレに行く」といった動作が、退院するころには一人では難しくなっていることも。
そして、影響は身体だけではありません。
環境の変化や活動量の低下によって、認知機能や精神面にも変化が現れてくることがあります。
だからこそ高齢者の入院では、「病気が治ったか」だけでなく、「入院前と比べて生活する力がどう変化しているか」にも目を向けていくことが大切なのです。
退院を考えるときに大切なこと
私はケアマネ時代、在宅での生活を続けていくのであれば、治療が一段落した後は、早めに退院のタイミングについて考えていくといいですよとアドバイスしていました。
本人に「もう少しリハビリを頑張りたい」という気持ちがあり、入院中もしっかりリハビリに取り組めているのであれば、リハビリを目的に入院生活を続けることにも意味があります。
一方で、治療が落ち着いたけど、リハビリに十分取り組めておらず、家族の都合などもあって入院生活だけが長くなっているのであれば、本人だけでなく、介護者にとっても「このままでいいのかな」と考えることも必要です。
退院したあと、どこで、どんなふうに暮らすのか。
施設での生活を考えているのであれば、そのための準備もあります。
自宅での生活を続けるのであれば、本人だけでなく、家族の生活も含めて考えていく必要がありますよね。
そこまで見据えて、入院中の過ごし方や退院のタイミングを考えていくことが大切だと思っています。
母の入院で、改めて感じたこと
私自身、84歳の母が大きな手術を受け、ICUで人工呼吸器による管理を経験したときも、この「退院したあとの生活」をずっと気にしていました。
母は長い入院生活の中で、身体を動かせない時期もありました。
それでも、少しずつ状態が落ち着いてくると、
「できるだけ身体を動かす機会をつくってほしい」
「身の回りのことを、自分でできる状態に戻ってほしい」
そんな思いがあり、主治医にはこのことを早くからお願いしていました。
年齢を考えると、ここまで回復できたこと自体が本当にありがたいことでした。
そして、母の回復を見ながら改めて感じたのが、高齢者にとって入院は、単に「病気を治して退院する」というだけではないということです。
私自身、ケアマネとして、入院前と同じように家に帰れない人をたくさん見てきました。
入院が、その後の行き先の分かれ道になってしまうこともあるんです。
だからこそ、「病気が治ったら、また家に帰ろう」。
そんなふうに、その先の暮らしまで思い浮かべながら、入院中の時間を過ごしていきたいものです。
住み慣れた家で、またいつもの生活ができる。
そんな退院につながるように、治療だけでなく、その人の「暮らす力」にも目を向けていきたいですね。
※母のICU入室から退院までの経過については、こちらの記事に詳しくまとめています。



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