テンちゃんを迎えた日のことを思い返すと、今でも胸の奥がじんわり温かくなります。
あの日、娘がペットショップでひと目見て心を奪われたのが、ポメラニアンと柴犬のミックス犬の小さな男の子でした。

娘は家族に相談する前に、「この子を連れて帰りたい」と決めてしまったようでした。
まさか本当にそのまま連れて帰ってくるとは思っていなかったので、私はかなり驚きました。
でも、娘の腕の中でおとなしく抱っこされながら家にやって来たテンちゃんを見た瞬間、不思議と反対する気持ちはなくなりました。

小さな体を預けるようにしている姿を見て、「この子はうちの子になるんだな」と自然に思ったのを覚えています。
とはいえ、受け入れると決まったらのんびりしている暇はありません。
ごはんや食器、トイレ用品、ケージにベッド。
子犬との暮らしに必要なものを、慌てて揃えに走りました。

突然始まった新しい生活。
バタバタしながら準備をしていたはずなのに、不思議と心は少し浮き立っていたように思います。
テンちゃんにあった狼爪
テンちゃんには狼爪(ろうそう)がありました。
狼爪とは一般的には前足の内側にある指のような爪のことで、生まれつき持っている犬も少なくありません。グレート・ピレニーズなど、後ろ足の狼爪が犬種の特徴として見られる犬もいます。
テンちゃんのように後ろ足にある場合でも、特に生活に支障なく過ごしている子はたくさんいます。

犬の先祖であるオオカミや野犬の時代から進化する中で、後ろ足の親指(狼爪)は使われなくなって退化していったのですが、今でも遺伝的な個性的特徴として、後ろ足に狼爪を持って生まれてくる子は珍しくありません。
運動や日常生活で引っかけて痛がる様子がなかったり、爪を切るときに巻き爪にならないようケアできていれば、何の問題もなく一緒に元気に暮らせます。
実は、テンちゃんには一度、家族が決まりかけたことがあったそうです。
けれど、狼爪があることを理由にそのお話はなくなってしまったのだとか。

でも、当時の娘にとっては、そんなことはどうでもよかったのでしょう。
「この子がいい」
ただそれだけだったのだと思います。
私はその話を聞いて、犬を迎えるということは、見た目や条件ではなく、ご縁なのかもしれないと感じました。
10歳のムックとの暮らしが始まる
ただ、ひとつだけ心配なことがありました。
家にはすでに10歳のラブラドール、ムックがいたからです。
シニア期に入ったムックにとって、元気いっぱいの子犬は負担にならないだろうか。
それが私のいちばんの不安でした。

テンちゃんはムックの後ろをちょこちょことついて歩き、何にでも興味津々。
一方のムックは、少し距離を取りながら静かに様子を見ています。
その様子を見ながら私は、「無理に仲良くならなくてもいい」そう思うようにしていました。
まずはムックが安心して過ごせること。
それが何より大切だと考えたからです。
シニア犬がいる家で気をつけたこと
実際に子犬を迎えてみて、私が意識していたのはムックの日常をできるだけ変えないことでした。
散歩の時間も、ごはんの時間もなるべく今まで通り。
テンちゃんに手がかかる時期だったからこそ、先住犬であるムックとの時間も意識して作るようにしていました。

また、寝る場所や休む場所もそれぞれが落ち着けるようにし、テンちゃんがしつこく遊びに誘っている時は少し距離を取らせることもありました。
多頭飼いを始める前は、「仲良くなれるかな」とばかり考えていましたが、実際には仲良しになることよりも、お互いが安心して暮らせることの方が大切だったように思います。
犬にも相性があります。
人間と同じように、それぞれ心地よい距離感があるのだとムックとテンちゃんから教わりました。

ムックが見せてくれた優しさ
そんな心配をよそに、ムックは本当に穏やかでした。
テンちゃんが近くに来ても怒ることなく、少し困ったような顔をしながら受け入れてくれました。
まるで、「しょうがないなぁ」と言っているようでした。

今思えば、私たち家族が安心して多頭飼いを始められたのは、ムックの優しさに支えられていたからかもしれません。
テンちゃんが運んできてくれたもの
あの日、家にやってきた小さな子犬。
それまで静かだった我が家に、にぎやかな風が吹き込みました。

ムックの後ろを追いかけていたテンちゃんも、今では立派な成犬です。
石を見つければ嬉しそうにくわえ、思いきり走り回り、家族を笑わせてくれます。
性格は正反対。
のんびり屋のムックと元気いっぱいのテンちゃん。
それでも不思議とバランスが取れていて、ふたりを見ていると「家族ってこういうものなのかな」と思うことがあります。
これから子犬を迎える方へ
もし先住犬がいるご家庭で新しい家族を迎えようと考えているなら、焦って仲良くさせようとしなくても大丈夫です。
まずは先住犬の気持ちを大切にすること。

そして、それぞれのペースを見守ってあげること。
時間はかかっても、少しずつ家族になっていく姿を見られるのは、多頭飼いならではの幸せだと思います。
娘が連れて帰ってきたあの日から始まった、ムックとテンちゃんの暮らし。
振り返るたびに、「あの時うちに来てくれてよかったな」と、しみじみ思うのです。



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